花鳥風月
「ごめん、お待たせ。」
夏休みの講習と部活で遅くなってしまい、恋人に詫びる。
「大丈夫、行こう。
……似合うね、浴衣。」
私は言えないようなことをさらりと言ってしまえる彼。
「……ありがと、行こ。」
素直になれない私はぎこちなく受けて歩き出す。
りんご飴、トロピカルジュース、綿あめ、ソースせんべい。
いつもなら静かな神社が祭りの空気で満たされていく。
華やかだ。
浴衣を着た女の人、近所の高校生、子連れの親子、屋台のおじさん。
人で飽和してしまいそうなほどだ。
夕方から、どんどん夜になっていく。
提灯の一つ一つに灯がともされていく。
人々の声はますます大きくなる。
その隙間を縫うように、静かに風が抜けていく。
まるで、『さようなら』と囁いているみたいに。