一途な彼にとろとろに愛育されてます
「もしかしてあれ、わざと言ったんですか……!?」
あれ、というのは檜山との過去の話のこと。
思わず大きな声を出した私に、愛菜さんは申し訳なさそうにしながらもくすくすと笑った。
「だって匠もあなたのことすっごい気にかけてるし、あなたも思いっきりヤキモチ妬いてるし、面白くって」
ば、バレてた……!
自分の嫉妬が丸わかりだったなんて恥ずかしすぎる。そんな私相手だったからこそ、彼女もからかい半分であんなことを言ったのだろう。
「でもびっくりしちゃった。ワインがかかったのは本当にトラブルだったけど、まさかあの匠が人前でお姫さま抱っこして、仕事も忘れて抜け出すなんて」
「それは確かに……私もびっくりでしたけど」
「よっぽどあなたのことが大切だったのね」
大切……。
その言葉にまた自惚れそうになってしまう。にやけてしまいそうになる口元を、ぐっと堪えるように力を込めた。
すると愛菜さんは笑顔のまま、手にしていた紙袋を私の手に持たせる。
「不釣り合いな女には、なんて言ったけど本当はそんなこと関係ないの。彼が幸せなら、それだけで」
「え……」
「匠のこと、よろしくね」
愛菜さんはそれだけを言って、「じゃあね」とその場をあとにした。
迷いなく、颯爽と歩いて行く後ろ姿はかっこいい。
彼女は、本当に檜山のことを想っていたのだろう。
その気持ちは、今、彼の幸せを願えるほどに。
彼が幸せなら……か。
同じことを、私も祈ってる。
ただ少し違うのは、その祈りとともに、幸せにできる相手が自分だったらいいなと思う願いがついてくること。
そのためにどうしたらいいかなど、分かりきっているのに。