一途な彼にとろとろに愛育されてます
「悪いですけど、今日俺と先約あるんで。田丸さんにこいつは渡せません」
「檜山、お前なんで……」
不思議そうに檜山を見る田丸さんの言葉を遮るように、檜山は「あと」と言葉を続ける。
「気安く触らないでもらえます?俺のなんで」
そしてそう言い切ると、じろ、と田丸さんを睨んで、私を連れ歩き出す。
スタスタと早足で行く彼に、ついていくように私も必死で歩く。
な、なんで……どうしてここに檜山が?
しかも田丸さんの前で肩を抱いたりして、『俺の』なんて。
状況がまったく理解できず、ただただ困惑してしまう。
それから少し歩くと、檜山はひと気のない通路を曲がりミーティングスペースへと入った。
ブラインドが下げられ外から見えなくなっているその部屋の中で、彼は電気をつけると部屋の鍵をかけた。
ふたりきりになったところで、私はようやく口を開く。
「檜山、なんで……」
「この鈍感女」
「は!?」
って、なにをいきなり!?
なぜ彼があそこに現れたのか、あの発言の意図を知りたかったのに、檜山から発せられたのはそんな冷たいひと言だった。