一途な彼にとろとろに愛育されてます
けれど、そんな亜子の印象が変わったのは、入社から一年ほど経った時のことだった。
その日の仕事中、亜子が大きなミスをしたとかで、上司に強く叱られているのを見た。
その時も亜子は言い訳することなく、深く頭を下げ謝っていた。
けどどうせ、少し経てばまたいつものように笑うのだろうと思っていた。
けれど、休憩時間にたまたま見かけた彼女はひとりこっそりと泣いていた。
『……長嶺?』
『檜山くん……あっ、いやごめん!見苦しいものを……』
思わず声をかけたら、亜子は慌てて涙を拭いまた笑ってみせた。
自分のミスに対する悔しさや悲しさがあったのだろう。それを人前では見せることなく、こうして強がってみせる。
そんな彼女の弱さを初めて目にして、胸がグッと掴まれた。
でも、ひとりで泣いてほしくない。
どうしてかそう思った俺は、一度その場を離れ缶コーヒーを二本手にして戻った。
『……飲めば』
『え……あ、ありがとう』
亜子は驚きながらも受け取って、それを確認すると俺は隣に腰を下ろした。
『あと、別に見苦しくなんてないから。落ち込むこともミスすることも、誰だってあるし』
誰かを励ます言葉をかけるなんて、自分らしくない。
だけど、その涙を拭いたかったんだ。
それ以上、俺たちの間に会話はなかった。
けれどしばらくして、立ち上がった彼女が『ありがと』と笑ってくれた時、うれしさと安心感が込み上げた。
強がりじゃない笑顔を見せてくれてよかった。
その表情が、うれしい。
そう思えた時には、気づいたら好きになっていたんだ。