一途な彼にとろとろに愛育されてます
「あっ、いたいた。檜山さん」
その日の午後。
会議を終えそろそろ昼休憩にでも入ろうかと秘書室に戻ると、そこに姿を現したのはひとりの女性……立花社長の夫人である、杏璃さんだった。
といってもまだ籍を入れたばかりで、公表はしていない。
社員のほとんどは、『よくうちのレストランに食べにくる立花社長の身内』といった目で見ているようだ。
綺麗に巻かれた毛先を揺らし、俺を見つけた彼女はにこりと笑って手招く。
デスクに資料を置き、呼ばれるがまま廊下へ出た。
「どうしたんですか。立花社長なら今打ち合わせ中ですけど」
「今日は玲央さんじゃなくて、亜子ちゃんに会いに来たんです。どちらにいますか?」
「亜子なら館内のどこかしらにいると思いますけど。もうすぐ休憩入るでしょうし呼びましょうか」
胸ポケットから仕事用のスマートフォンを取り出す俺に、杏璃さんは遠慮がちに首を横に振った。