一途な彼にとろとろに愛育されてます



『……長嶺?』

『檜山くん……あっ、いやごめん!見苦しいものを……』



泣いてる姿を見られたのが恥ずかしくて、涙をぬぐいながら必死に笑みを繕った。

けれど檜山はそんな私を見ると、無言でその場を去って行った。



行っちゃった。でもそうだよね、泣いてる人と一緒にいるとか気まずいよね。

めそめそ泣く女とか嫌いそうだし。

そんなことを考えながらまた俯いていると、突然頬にひんやりとしたものが当てられた。



『ひゃっ』



おどろき顔を上げると、そこには缶コーヒーを二本手にした檜山が立っていた。



『……飲めば』

『え……あ、ありがとう』



さっきいなくなったのは、これをわざわざ買いに……?

缶を受け取りながら驚いていると、檜山は黙って隣に腰をおろした。



『あと、別に見苦しくなんてないから。落ち込むこともミスすることも、誰だってあるし』



顔を背けたまま、笑顔もなく伝えられた言葉。だけど彼なりのせいいっぱいのフォローなのだろうと察することができた。



よく分からない人。だけど、優しい人なんだろうってことは分かった。



思えばあの時から、心は彼に惹かれ始めていたのかもしれない。



< 26 / 154 >

この作品をシェア

pagetop