一途な彼にとろとろに愛育されてます
『長嶺?なにしてんの』
傘を差し出してくれた彼の優しさに、平然を装えず私はわああと泣いてしまった。
それから嗚咽混じりで彼氏とのことを話すと、黙って全てを聞き終えたあと檜山が言ったのは
『じゃあ、うちくる?』
そのひと言だった。
驚いたけれど迷う余裕もなく頷いた私を、檜山はタクシーを拾って押し込んだ。
そしてそのまま連れられて来たマンションは、ひとり暮らしには不釣り合いなほど広く部屋数のあるこの家。
聞けば、友人とルームシェアをする予定でこの部屋を借りたはずが、その友人に恋人が出来て『彼女と暮らすから』とルームシェアをドタキャンされたのだそう。
『部屋は余ってるから勝手に使って』
『いいの?私他にあてもないし、引越し費用もないからしばらくお世話になっちゃうけど……』
『別に俺はいいけど』
そんな成り行きで、じゃあいろいろと落ち着くまで、という話で始まった私たちの生活。
それから引っ越し資金が貯まるまで、次住むところが決まるまで……そう言いながら段々とこの生活が楽しくなってきて、檜山といるのが当たり前になっていった。
次第に檜山は私を『ミネコ』とあだ名で呼ぶようになって、気づいたら私は彼を好きになっていた。
縮まらない距離は、今日ももどかしいけれど。