【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「本当っ!?」
詰め寄られて、翠蓮は笑う。
「はい」
「ありがとうっ!!」
涙目で、お礼を言われた。
「早めに駆けつけることが出来て、幸いでございました」
放っておいたら、恐らく、衰弱死していただろう。
安心したのか、大粒の涙を流し始めた栄貴妃。
それでも、朝露の濡れた牡丹のような淑やかさがあり、とても美しい方。そして、優しい人。
「栄貴妃様は、とてもお優しい方ですね」
翠蓮がそう微笑むと、
「わたくしが優しいのではないの。わたくしはただ、周囲に恵まれているだけよ」
と、栄貴妃は答える。
その答えが出てくる時点で、民を思いやる心がある。
それでも、黎祥……皇帝陛下が後宮に来ない理由は、栄家に利用価値がないとでも思っているからだろうか。
いや、そんなはずはない。
そうであるのなら、皇帝の傍に栄静苑様は付いてないだろう。
(貴方が、誰かを深く愛せるようになれば―……)
そうすれば、黎祥は救われる。
そうすれば、翠蓮も諦められる。
忘れられない、愛しい人の瞳を忘れることが出来るのに。