【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
手当て
「ほら、ちゃんと体は拭いてね」
家の中に黎祥を引きずり込んだ後、黎祥には体を拭くものを渡し、翠蓮自身も髪を乾かしながら、室内を歩き回る。
「……一人暮らし、なのか?」
「ええ、そうよ?家族、恐らく全員、死んじゃったし」
腕まくりをして、薬草を引き出しからいくらか取り出す。
「死んだって……」
「まぁ、流行病と先帝時代に冤罪で」
これで、翠蓮の家族は全滅した。
「恐らくってことは……」
「兄たちが行方不明なのよ。生死不明。連絡取れなくなってかなり経つから、生きてる希望は薄めってことで」
でも、生きていると信じたいという思いも、勿論ある。
「ま、私の家族の話はどうでもいいってことで!さっ、傷を見せて」
張り切ってそう言うと、彼は嫌そうな顔をした。
「……毒、じゃないよな?」
「違いますー」
なんて、失礼な患者だ。
「手当してあげるって言ってんのに、なんで、毒を盛るのよ。訳が分からないわ」
包帯を作り、無理やり、腕をさらけ出させた。
「うん、酷いね」
蒸した布を取り出し、優しく、丁寧に彼の傷に触れる。
無残な傷跡は、この先も残り続けることだろう。
時々、痛みに顔を歪める黎祥の腕に包帯を巻き、翠蓮は笑顔になった。
「……治せるのか?」
「大人しく、貴方が私の治療を受けるのならね」
「そうか……」
自分の包帯が巻かれた腕に目を落とし、
「皮肉だな」
と、彼は自嘲した。
「何が?」
「お前に言われて気づいたが、私は心の底では確かに、生きたいと願っているのかもしれん。毎日、毎日、送られてくる暗殺者の相手に疲れているだけで」
「毎日?そりゃあ、凄い御身分だ」
毎日襲われるとなっては、確かに心は休まらない。
「とりあえず、生きたいっていう、自分の本当の願いに気づけたのなら、それで良しじゃない?」
足に包帯を巻きながら、翠蓮は黎祥を見上げた。