【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
愛しい君
「それで、秋遠の様子はどうなっている」
黎祥がそう尋ねると、太医はお手上げというように、困った顔をした。
「見たことの無い、毒にございます。様々な解毒薬を使っていますが、どれも効きそうにはありません」
件太医を始めとして、五人の太医は黎祥の前に平伏していた。
太医というのは、本来、親王は診ない。
診るのは、皇帝、皇后、太上皇(先帝)、皇太后(先帝の正妻)、無上皇(先々帝)、太皇太后(先々帝の正妻)、妃嬪侍妾、皇子皇女であり、皇帝の兄弟は診てもらえないのだ。
これは古くからの決まりであるが、今回は黎祥の命令で診るようにしている。
ここにおいては誰も信頼は出来ないが、早く、苦しみから逃がしてやりたいのだ。
―黎祥の弟、秋遠の身体はやはり、毒に侵されていた。
血を吐き、何も食べられず、今なおもずっと魘されている。
深く関係を持っていたかと問われるとそうでもなく、お互いの存在すらも、数年前に知ったばかり。
秋遠は、先々帝の妃であった高淑太妃の息子だ。
黎祥が今いる場所は後宮内の高淑太妃が住まう、宵影閣(ショウエイカク)という所である。
彼女自身の望みで、秋遠はここに運ばれてきた。
今は、臥室の褥の上で魘されている。