【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
嵐
後宮に来て、色んな人と話をして。
蘭玉葉(ラン ギョクヨウ)という女性は、現在、皇宮に存在する唯一の太医だそうで、お互いに意見を交わして、充実な時間を過ごしたのが少し前のこと。
そんな彼女が正式に翠蓮の元に来て、第七公子を救うために、と、尽力を仰がれた時、どうして、素直に頷いてしまったのか。
弟の元には、黎祥がいると分かっていたはずなのに。
去り際の、黎祥の表情を忘れられない。
あれはきっと、気づいてた。
「―翠玉様?」
名前を呼ばれて、意識が浮く。
顔を上げると、目に瞳を溜めた淑やかな美人が翠蓮を見ていて。
「秋遠は……この子は、大丈夫なのでしょうか……」
愛息子の無事を祈る、母親。
その姿に、翠蓮の胸は痛む。
「……毒の種類は分かっていますが、何せ、治療に取り掛かるまでの時間がかかり過ぎた。あとは、体力勝負と言っても過言ではありません。最初、表貴人が身罷りなさってから、多くの人が同じ症状を訴えております」
「その毒とは……誰が、何の為に……」
「分かりません。ですが、皇族の方を脅かした以上、黒幕の処分は避けられぬものとなりました。もしくは、それが目的かもしれませんが。私の見解ですが、恐らく、犯人はこの後宮にいるでしょう」
翠蓮のその言葉に、高淑太妃の視線が鋭くなる。