【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「ええ。白淑人は、とても大人しい御方でした。つまり、手引きするものが……後宮内にいると思うのです。他におかしいと思う案件では、幽英姫の宮から見つかった、毒物ですね」
「両令姫のことですか」
「はい。彼女は毒物で亡くなっていました。同じ毒で、泉賢妃様がお倒れになられ、私は今、そちらの治療にも当たらせてもらっています」
「彼女たちのことは気の毒でなりません……。泉賢妃の側近宦官が、自白したようですね」
「はい。宮正司が言うところ、幽英姫に命じられて。そして、幽英姫の住まう清佳宮に宮正司が入ったところ、簡単に毒物が見つかった……。この件に関して、幽英姫は知らないと言っていますが、今のところ、身柄は捕えられてます」
「……筋書きが、まるであったようですわね」
「同じことを、宮正司も仰っていましたわ」
香を捨てた影響からか、呼吸が落ち着いてきた第七公子。
その様子を見て、少しずつ、高淑太妃の様子も落ち着いていく。
「では、黒幕は後宮に―……」
「ええ。恐らく。何が目的かは存じ上げませんが、栄貴妃様の毒味も倒れられています。寵愛を受けているのならまだしも、一度も、閨に侍ったことは無いのに」
そう、そこが一番、ひっかかる。
懐妊していたり、愛妃ならまだしも……黎祥は誰も、紅閨へ誘わない。
「……この子は、秋遠は、私の宝なのです。先々帝陛下が与えてくださった、私の宝物……」
愛しげに頭を撫でながら、泣く高淑太妃。
「今上陛下の母君や、柳皇太后陛下のように、寵愛を身に留めることは出来ませんでしたわ。でも、先々帝陛下は、私のそばで『落ち着く』と、仰ってくれました」
懐かしむように、優しい瞳で。
「他の妃嬪にも、仰っていたかもしれません。それでも、私は幸せでした」
彼女が、先々帝にとってどんな存在だったのか。
後宮にいて、色んな情報を手に入れて。
先々帝の口から溢れ出た、彼が遺した言葉の中には、高淑太妃の名前もあった。