【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「―高淑太妃様の御名、紫薇(シビ)様と仰るのですよね」
「え……」
「宰相様―高瑞峰(コウ ズイホウ)様から、色んな話を聞かせてもらう機会がありまして」
翠蓮は彼から聞いた話を、彼女にすることにした。
「柳皇太后陛下―翠蘭様は、"翠蘭は私の大切な家族であり、妻であり、公子の母であり、右腕であり、何よりも……私が愛するべき、民の一人である”と、先々帝陛下には言われていたようです」
信頼感のあったのだろう。
だから、彼女は先々帝の皇后の位についたんだ。
「他に聞いた話では、『紫薇の傍は落ち着く。瑞峰、知っているか?紫薇の入れる茶が美味いことを。あいつは、頭が良い。翠蘭と政の話をするのなら、紫薇とは世間話だな』と、仰っていたそうで……宰相様、あの時ほど羨ましいと思ったことは無かったそうですよ」
「良いお兄様ですね」と微笑みかけると、彼女は笑みを漏らして。
「そう……。もう、お兄様ったら……次に訪ねてきたら、お茶を入れて差し上げないとね。フフッ、陛下はそう仰ってくれてたの……私、陛下の安寧の場所に、なれていたのね……」
そして、優しい声で、公子の名前を呼ぶ。
「秋遠」と。
意識を失っている彼は返事を返せず、それを眺めながら、高淑太妃は話し出す。