【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―



「祐鳳と、慧秀が兄って……あ、そうだ!翠玉!」


「はい?」


「急に話変わってごめん!でもでも、大事なことなの!」


「なんでしょう?」


「えっとね、私の宮の女官なんだけどね、内楽堂(ナイラクドウ)に送られてしまったの。その人にはとてもお世話になったから、帰ってきて欲しいんだけど……」


内楽堂。


重病の妃嬪侍妾及び女官、宮女はそう呼ばれる療養所に収容される。


療養所と言う名前を持ってはいるが、そこに医者はおらず、薬もなく、食事も衣服も住まいもなく、最低の中の最低のものしか用意されていないという、言わば、墓場。


そこに入れられたら、最後。


環境も最悪だから、死を待つだけとなる。


「……あ」


「え?」


「灯蘭様。内楽堂って、どこら辺にありましたっけ」


「内楽堂?」


気安く、と、前に言われたことを思い出し、軽い口調で話し掛ける。


すると、


「―内楽堂は緑宸殿(リョクシンデン)がある通りを真っ直ぐ行ったところの、今は立ち入り禁止になっている、昔の冬宵宮の傍にあるよ。その周辺はもう、人の気はない。目印と言ったら、神殿かな。神殿と冬宵宮と内楽堂はとても近く作られていたからね。旧神殿を、目指すといい」


現れた、優しげな風貌の男性。


「流雲お兄様!」


灯蘭様は顔を輝かせ、彼に抱きつく。


(流雲……あ!淑流雲か!!)


淑流雲というのは、先々帝の第二公子である。


彼は革命の際、唯一生き残った皇帝陛下の兄として有名なんだが、見た目は思っていたような人とは全然違って。


女と見紛う儚げな美貌の持ち主の彼は、絹糸のような黒髪をゆるく束ねて右肩に垂らし、青葉のような翠緑の長衣を身につけていた。


身体が生まれつき弱いらしく、欲のない皇子としても有名だ。


流れのままに受け入れる性格をしている彼は、これでも、革命の身柄処遇が決まる寸前までは処刑を拷問ですらも、軽く受け入れていた。


『良いよ。どこに行って死ねばいい?』


と、兵に直接的に聞いて、兵を戸惑わせたこともある人。


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