【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「―お食事もまともに取られていないそうですが」
ここ数日、いや、この話に至っては、下町から帰ってきてから……彼は三食どれも完食しておらず、食事を用意してくれている臣下たちが心配している。
見る限り、彼は酒しか口にしていないし、眠らないし。
ここに翠蓮殿がいたら、目を向いて、怒っていることだろう。
「食べ物を少ししか口にしないのは、いつもの事だろう。―……気にするな」
「お食事が、お気に召しませんか?」
気にするな、と言われても、気にしてしまう。
何故なら、黎祥は嵐雪の主だから。
そして、この一国の王だから。
守る義務が、嵐雪にはある。
「……そうだな。強いて言うのなら」
黎祥が向けてきた目は虚ろで、哀しそうで。
「味がしないんだ。翠蓮と一緒に食べたものたちは、あんなに美味しかったのに……」
身体ではなく、心が。
きっと、あの人を失ってから、ボロボロだった心を満たしたのが、翠蓮殿の存在。
翠蓮殿と食べるご飯だったからこそ、満たされたのだ。
身体ではなく、心が満たされたから……美味しい、と、感じていたのだ。
そんな簡単なことですら、黎祥には分からない。
それは生まれた境遇のせいか、はたまた、彼が育ってきた環境のせいか。
そんな彼には重いことだが、皇帝の座にいる限り、付きまとうのは後継者問題。
「……陛下、後継の件は」
嵐雪が問うと、
「好きにしろ」
と、返してくる。
彼は、後宮にはいかない。
無駄だと、感じるんだそうだ。
そんな一夜だけの愛を捧げて、何になる。
お互いに虚しく、無駄な事件を起こすだけだと。