【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「新しい陛下には感謝しなくちゃ」
手当を全て終えて、翠蓮は薬草を棚にしまう。
「……お前は、今の皇帝でよかったと思うのだな」
「?当たり前よ」
どこか苦しそうにそう呟いた彼を見て、私は言い切る。
「冷酷だろうが、何だろうが、人を守れる人には悪い人はいないと思っているもの」
「……そういうものなのか?」
「ええ」
あくまで、持論だけどね。
「あ、そうだわ」
翠蓮はポンっと手を打つと、引き出しから巻物を取り出す。
「貴方に聞きたいことがあるんだけど」
「……なんだ」
「貴方、文字は読める?私、必要最低限しか読めなくて……」
開いたのは、少し難しめの医学書。
「必要最低限で出来る内容じゃないと思うが……この医学書は、それなりの教養があっても読めないだろう」
それって、薬草を煎じることかな?
「じゃあ、貴方にも読めない?」
「いや……これは……紙と筆、あるか」
「え?あ、うん」
取り出すと、それを手に取って。
「お前にもわかるよう、書き出しておく」
スラスラと書き出してくれる。
これだけで、彼にはかなりの教養があることが分かる。
翠蓮は黎祥の書き出していく文字を目で追う。
彼の字は、とても綺麗だった。