【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「……かなり長い時が、たったように感じるな」
「そうですね。彩蝶様が亡くなられて……」
嵐雪が、黙り込む。
こいつは、誰よりも母を大事にしていた。
『やめて下さいっ、おやめ下さいっ!!黎祥様!!!』
泣きながら、黎祥を止めたのも、嵐雪だった。
「……お前には、世話になりっぱなしだ」
「?、いきなりどうなされたんです」
「いや……傷、まだ、痛むか?」
「もう、大したことではありませんよ」
二年前の、革命の折。
幼き頃から、黎祥の影武者を演じてくれている嵐雪は、先帝に勘違いされて、斬られた。
命に別状はなかったものの、背中には大きな傷が残っている。
天気が悪くなったりすると、どうも、その傷が痛むらしい。
そこで、翠蓮の万能傷薬というわけだ。
優しく微笑む嵐雪は、今年で二十五。
妻を娶ってもいい年頃だが、彼自身が拒絶しているから、どうしようもない。
「……湖烏姫(コウキ)様の件に関しまして、朝廷は荒れたそうですね」
「…………先帝は、興味を示されなかったがな」
湖烏姫というのが、黎祥の母を殺した張本人である。
先々帝の寵愛が母に移ったことを激しく恨み、母を弑逆したらしい。