【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
十七歳の春
「……お前は、馬鹿か?」
「そんな顔で、言わないで。祥基」
雨が上がって、三日。
黎祥が翠蓮の家に来て、三日。
おばさんの用事で訪ねてきた祥基は、黎祥の存在を認めた瞬間、翠蓮をとっ捕まえた。
「はぁ……馬鹿としか言えねぇ……何してんだ?お前」
「困った人に手を差し伸べるのは、当然のことでしょう。何も悪いことはしていないと思うのだけど」
「いや、あの男は……」
祥基は大きな溜息をつき、前髪を掻き上げる。
その時。
「翠蓮、話し中すまない。洗濯物、取り込んだのだが」
「お、ありがとう。黎祥」
「他に、何かすることはあるだろうか」
「そうね……って、大怪我しているんだから、少しは休んでおきなさい。あとは、私がやっておくから」
黎祥が取り込んだ洗濯物を受け取って、翠蓮がそう言ったけど、
「いや、世話になっている以上、何かしないと気が済まないんだ」
と、黎祥は何かしたくてたまらないそうで。
「じゃあ、買い物に行ってもらおうかな」
翠蓮からしても、正直、男手があることはとても大助かりである。
「分かった。しかし、外に出るのなら、何か、頭に被るものが欲しいのだが……」
何を言っても、首を縦に振る黎祥。
買い物も承諾してくれた黎祥は、どこか不安げにそう言った。
「被るもの?外套でいい?」
翠蓮が尋ねると、
「助かる」
と、黎祥は微笑む。