【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
大切なもの
「……嫌な空気」
ふと、何かに導かれるように、翠蓮は空を見上げて呟いた。
曇天に、太陽の光などない。
どんよりとした空気は、身体を重くして。
「―……国中、嫌な空気じゃ」
「うわぁ!?」
突然聞こえてきた声に驚いて、翠蓮は手に持っていたものを落としてしまう。
「わわっ、やっちゃった!」
急いで拾い集めていると、落ちた包帯を一つ、手に取って。
「よう、久しいの。翠蓮」
ニコッ、と、笑った、気がつけば、隣にいた妖々は、
「伯怜に名前をやったんじゃって?」
と、唐突に不貞腐れた顔で聞いてきた。
「う、うん……久しぶり、妖々」
「……」
翠蓮の呼びかけに答えない妖々は、どうやらいじけているらしく。
「欲しいと言われたから、あげたんだけど……ダメだったかな?」
翠蓮の窺いの声に、ぷくーっと頬を膨らませる。
そして、
「あの変態だけズルい!儂も欲しい!!」
と、急に言ってきて。