【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「ちょっと、待っててね」
黎祥の衣服は血だらけで……とてもじゃないけど、再び、身につけられるものではなかった。
だから、祥基からいらない衣服をもらったんだけど……そんな翠蓮の奇怪な行動を怪しんで(心配して)、祥基は訪ねてきてくれたんだと、翠蓮は分かってた。
小走りで奥の部屋に仕舞ってある、父の外套を取りに行く。
「はい」
それを受け取り、身につけた黎祥は、
「じゃあ、行ってくる」
と、柔らかく笑った。
ここに来てから、どんどん表情の種類が増えていく黎祥。
それほどまでに、辛い環境にいたのか。
「……翠蓮、お前」
「?なに、祥基」
「お前、何処の御大尽を拐って来たんだよ……」
「ちょっ、拐ってない!救いはしたけど……」
なんて、失礼なことを言う幼なじみだ!!
「あの男、ただもんじゃねーぞ」
「あ、やっぱ、祥基もそう思う?」
「だって、雰囲気が違いすぎる」
「……」
人を圧倒するような、雰囲気。
寂しげな、双眸。
人を惹きつける容貌は、氷のように端正だった。
「―ま、なんとかなるっしょ!」
翠蓮の前向きな言葉に、再び、祥基は大きなため息。