【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「あのね、確か……宴の際とかに声を掛けられていたの。それが、彼女達だった気がするわ」
「声を掛けられていて、寵愛を受けないことなんてあるのですか?」
「そりゃあ、あるわよ。私も何度も陛下と話はしているけれど、臥所に侍ったことがないようにね」
歴代の帝王の中には宴で余興として、その夜の夜伽相手を選ぶ遊戯(ゲ-ム)もあったそうだが、何せ、あの黎祥だ。
(そんなことはしないもんなぁ……それに)
栄貴妃には、想う人がいる。
それが、自分の兄なのは些か、いや、かなり、不服だけど。
つまり、夜伽の命が下らぬのは、彼女にとってはそれは都合のいい話。
もしかしたら、彼女が一番、この後宮において、嵐雪さんの条件に合っているのかもしれない。
でも、彼女を利用するのは……気が引ける。
「……陛下の目を引くような、そんな女人だったのですか」
それならば、本当に彼女たちは死ぬべきではなかった。
黎祥の妻に、寄り添う人に、なってくれるかもしれなかったのに。
「そうね。皆、美しい方々よ。得意なことで言うならば、表貴人は舞の名手だった。白貴人はお茶を入れるのが得意で……集英姫は読書家で、才に明るかったわね。そういう特技を見かけた陛下が、お褒めの龍言を彼女たちに下したの。つまり、お声を掛けられたっていうのは、皆、陛下と個人的にお言葉を交わしたことがある人たちのこと」
三人の妃に共通点は特になさそうで、あることと言えば、黎祥に声をかけられたこと……。
(黎祥が、皇帝の位でいることを不服に思っている人がいるってこと……?)
後宮に入って日が浅いと、そういうことも検討がつかない。