【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「じゃあ、お前はあの男を匿うことで決定しているんだな」
「うん。すごい怪我だし」
「そんな怪我を、どこでしてきたんだか……」
「さぁ?でも、いんじゃない?人間、身の上は様々よ。それにね、頭がいいの。力も強いし、大助かり。ってことで、いても迷惑じゃないのよ」
「……そのアホみたいに前向きな性格、羨ましいよ」
褒められているのか、貶されているのか。
「一言余計」
不貞腐れた翠蓮を見て、苦笑した祥基は、
「まぁ、何かあったら、すぐに俺のとこに来い。金も必要になったら、貸してやるから」
「お金はいいけど、そう言ってもらえるのは嬉しい。ありがとう、祥基」
翠蓮が素直にお礼を言うと、
「……お前が素直とか、怖ぇよ。やっぱ、何かあるんじゃねーの?」
なんて、失礼なことを言って笑ったんだ。
そんなことないって、翠蓮は笑った。
知らなかったの。
黎祥を拾ったことで……この後訪れる、自分の大変な未来なんて、想像もしていなかったの。
―何も知らないままでいられた、十七歳の春。