【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「……数々の恩を賜りながら、期待に応えられないわがままな、私を赦さないで下さい」
赦して、とは言わない。
言う資格が、翠蓮には残されていない。
「龍鳳門を、潜りたくありませんか」
「はい、ごめんなさい」
内楽堂を救うということは、命を失う覚悟をするということ。
「それなのに、内楽堂を……死ぬかもしれませんよ」
「それでも、私は参ります。己の足で、己の思うまま」
龍鳳門―外廷と内廷を繋ぐ門。
外廷―皇宮で黎祥が皇帝陛下として生きるのなら、
内廷―後宮で翠蓮は薬師として生きよう。
(これは、私の"逃げ”だ。それに、黎祥は私に妃になって欲しい、とは、願わなかった)
絢爛華麗なその門を潜った時点で、皇帝に愛されたいとか、そういう希望は全て塵芥と化す。
生涯、皇帝以外の男性のことは愛せず、皇帝が愛してくれなくても、同情でも情けを与えてくれなくても、息子を産むまで家からの叱責は続く妃嬪は多い。
彼女達が皇帝の皇子を産み、そして、その子が皇帝となれば……その一家の繁栄は約束されるからだ。
そんな思惑を持って、やってくる妃たちを皇帝は寵愛する。
そして、寵愛の加減で各家を操り、争いごとが起こらぬよう、取り計らうのだ。
後ろ盾のいない翠蓮には、寵愛される資格はない。
後宮に入ることを拒絶するのは、先程述べたことと、これが大きな理由だ。
あと、理由の一つとなるのは最近、栄貴妃様の食事には毒がもられることが頻繁になった。
自分に親切にしてくれて人達の命が危うい時に、それを全て見捨ててまで、自分は愛に生きたいとは思わない。
毒での騒ぎなんて、後宮ではよくある事だが、寵愛を受けていないのにあまりにも頻繁すぎる。
調べてみると、元手は全ては栄家に繋がった。
皇子を産めぬ、寵愛を手に入れられぬ妃は不要であると、家が見放しかけているという事だ。
そんな、彼女を救いたい。
だから。