【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「……嵐雪さん」
「はい」
「私のことはとりあえず、横に置いて……この一連の事件のことですが」
(私は、黎祥のことは忘れるの)
例え、忘れられなくても。
それでも、愛を忘れるんだ。
あの夜は、一時の儚い夢。
もう二度と、訪れない日々。
「既にご存知のことと存じますが、毒をばらまいた黒幕は見つからぬまま、最近は親王の王妃までに危害が及んでいます」
王妃を大切にする親王様たちは日夜、王府から出ようとせず、宝玉を守るように慎重に過ごす日々。
そんな時に行われる、黎祥の大事な儀式。
「このままでは、儀式に影響がでるでしょう。黒幕の思惑がなんなのかは把握できませんが……」
「儀式に必要な、女王の亡骸も行方不明になっています。どちらにしろ、黎祥様の儀式は―……」
「女王の亡骸がなければ、黎祥は皇帝に相応しくないと仰るのですか」
「違います。そうではなくて……もし、バレた時は大変な騒ぎとなるということです。最も、今はこの話は極秘ですが……」
「儀式が行なわれ、この国の龍神に黎祥が認められれば……黎祥を皇帝の座から引きずり下ろすことは困難となる。だから、亡骸も盗んだ、と?」
「いえ……それは厳重警備の元ですので、有り得ません。本当に神隠しのような、出来事なのです」
「…………でも、今はその話は極秘なのでしょう?ならば、私がとある伝手の方で探してもらいます。ですので、儀式は本来の予定通りに」
「とある伝手とは?」
皇帝、皇太后、妃嬪侍妾、親王、親王妃、宦官、医官……と、手広い方々と親しくしてきた翠蓮だが、そこから察するに、黒幕は数名いる。