【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「とある伝手です。危ないものでは無いので、問題ないですよ。だから、そろそろ、嘘つきの舌を引き抜きましょう」
「は?」
「黒幕が恐れている事態を、本当のことにしてやるのです」
恐らく、黒幕たちの方は黎祥の寵愛を栄貴妃様が受けることを避けたいようで、そうなると、黒幕の栄家は弾かれる。
彼らは栄貴妃の懐妊を渇望しているから。
だが、栄家を弾いたところで、何も解決はしない。
栄貴妃を敵視する家は、妃嬪は、数多にいるから。
ならば、誰か?
黎祥を皇帝の座から引きずり下ろしたくて、
そして、栄貴妃様に黎祥の子を産ませたくない人は。
これが、単なる嫉妬であるというのなら、事をここまで大きくする必要は無い。
つまり、皇帝―黎祥に関係がないと、国を巻き込む騒動にする必要は無いのだ。
儀式には、隣国の皇太子なども参列する。
絶対に、中止などということにはできない。
黒幕がやっているのは、国を巻き込む騒動の前夜祭。
騒動を、大きなことにする前に必要なことは、黒幕をひきずりだすこと。
翠蓮が考えた策は、翠蓮の心に反することだが……それでも、黎祥には幸せになって欲しいし、この国を立て直すには黎祥の力が不可欠だ。
だから、黎祥を失うわけにはいかない。
それに、間違いなくこの事態を放っておいたら、巡り巡って、栄貴妃の命は脅かされるだろうから。
彼女は漸く、兄と出会って、幸せになることを知れた人だから。
それが密通で、栄家が族滅される危険性を孕んでいようと、愛する人と別れることは辛い。
バレたら命がなくなって、でも、寵愛受ければ一時だけでも助かれる。
寵愛を受けることが栄貴妃にとっての苦痛であろうと、どちらを選んでも苦しいのならば、まだ後者の方が良い。
(身を汚さねば、生きられぬ後宮で……私はこうして、薬師として身を汚す)
「……貴方の口から、栄貴妃を寵愛するように言ってください」
(ごめんね、黎祥)
貴方の国を、守るため。
貴方のことを裏切るわ。
「栄貴妃様には、私から話をしますから」
これが、翠蓮の後宮で生き残るための闘い方だ。