【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「違いますっ……」
「?、何が?」
「私は、そう言って貰える人間じゃない……」
父が、殺された時。
この国なんて滅べばいいと願った。
「私は、自分の気持ちに忠実な、ただの……」
母が死んだ時、自分の無力さを知った。
『翠蓮、お父様を恨まないで。お父様はこの国のために生きて、この国のために散ったの。私もお父様の……飛雲(ヒウン)様の元へ行くだけよ。どうか、幸せに。ありがとう、翠蓮』
あれが、母との最後の会話。
父を失い、兄達には出ていかれ、弟妹達は死んで。
それでも、翠蓮は走った。
母だけでも、救いたかった。
でも、母も救えずに。
無力な自分を憎んだ。
「私は、そんな素晴らしい人間じゃ……」
「翠蓮」
「っ……」
柔らかな、絹のような栄貴妃の手が頬に触れた。
彼女は優しい笑みを浮かべて。
「自分を卑下してはダメよ。貴女自身がそう言ってしまえば、貴女の価値がそこで決まってしまうじゃない」
「……っ」
「陛下が好きで、でも、それを伝えてしまったら、自分が消えてしまう気がして怖いのではなくて?守れるものも守れなくなる、私の地位に……陛下にとっての"一番”に、"寵姫”になるのが怖いのでしょう。だから、私にそんなことを頼む」
「そんなことは……っ!」
「私じゃなくても、いいはずだわ」
言葉が、詰まった。