【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「必要なのは、誰かが寵愛されたという証。それなら、私じゃなくても……他にも、妃はいるでしょう?」
その通りだ。
黎祥の、冷武帝の後宮には三千の華がいる。
栄貴妃はそこの頂点だから、黎祥と近いから、命を狙われているだけ。
翠蓮の見立てが正しいのなら、それは、後嗣を産む確率が高いからだ。
だから……黎祥が他の妃を寵愛すれば、その狙いの定めは全て、その人に行く事だろう。
「…………ねぇ、嘘をつかないで」
「……」
「忘れられないのでしょう。陛下を、愛して止まないのでしょう?嬉しさも、悲しさも、翠蓮は陛下とじゃないと分かちあえないのよね?」
「私っ、私は―……」
声が、震えた。
栄貴妃だから、仕方ない、なんて……そんなのは全て、私の自己満足。
栄貴妃は責めることなく、翠蓮の心を開こうとする。
その時。
「―……雪麗っ!」
何の、前触れもない訪れ。
現れたその人と目が合い、翠蓮は首を横に振った。
黎祥は皇帝の姿ではなく、かつての下町での姿で。
(二人は、既に知り合っていた―……)
それこそ、名前を呼び合うほどに。
「っっ、」
自分はどうするべきなのか。
そういう考えが、全て消えてなくなりそう。
今すぐ、ここから消えたいと望むほどに。