【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「翠―……っ」
「っっ、変なことを言ってしまい、申し訳ございませんでした。御前、失礼いたします」
黎祥の手が伸びる。
それを避けて、翠蓮は微笑む。
空を掴んだ、黎祥の手。
ここが、分岐点。
「では」
―知りたくなかった。
自分以外に、名前を呼ばれる女人のことなんて。
自分以外に向けられる黎祥の優しい瞳を、見たくなかった。
回廊を急いで歩き、辿り着いた所は。
「―あ!翠玉!あのね、ここに……」
聞こえる、可愛い人の声。
許可をもらって、麟麗様と鈴華様に詰んでもらっていた、薬草たち。
「いっぱい、翠玉の言っていた薬草―……」
翠蓮は座り込んだ。
座り込んで、鈴華様を抱きしめて。
「ちょっ、す、翠玉!?」
「鈴華?どうし……翠玉!?」
ただ、嗚咽した。
翠蓮に守れるものは、一体なんなんだろう。
強欲な自分に、これ以上、何を救えるというのだろうか。
「ごめんっ、なさい……」
何に、対する謝罪だったのか。
諦めきれない自分に、嫌気が指す。
やはり、後宮に来るべきではなかったのだ。
何も変わらないまま、下町で普通に生活していれば―……知らずに済んだだろうか。
死の次に辛い、こんなに辛い、生き別れというものを。