【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―



「あの子は……良い家の娘ですよ」


「……」


「下町の、なんてことの無い薬師だと聞いていましたが……武術はともかく、作法は令嬢のそれです。姿勢も、細かい仕草も、ずっと見てきましたが……"ただ”の、しかも、こんなにも革命で荒れ果てたこの国で、あんなことが出来るのは貴族のみですわ」


翠蓮の姓は、李。


この国で存在する貴族のうち、李といえば……あるのは、李将軍の一家だけだ。


でも、李将軍には娘はいない。


何より、それを秘密にする理由もわからないし、妻どころか、愛人、女に近づいている暇もないくらいの仕事人間なのに、娘なんて授かれようか。


「ですから……」


「やめろ……」


栄貴妃が言おうとしていることは、分かる。


自分も、一度は考えた。


彼女をどこかの令嬢として、自分の妻に迎えようか、と。


でも、それを、彼女は望むだろうか、そこで留まった。


「……どうしてですか?」


「あいつを、縛るのは……」


「陛下」


「やめろ」


「逃げていては、何も始まりません」


「…………」


「この後宮に置けばいいではありませんか。貴方の一言で、翠蓮はこの後宮に住むことが出来る。調べて、もし、貴族の娘だったら……貴方は思うように、翠蓮を愛せ……」


「黙れっ!!」


―空気が、震えた。


久々に出した大声に、怯えず、栄貴妃はため息をついて。


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