【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
―そんな会話をしてから、五刻ほど経った。
「全く、もう……」
大量の薬草が入った籠を背負い、山道を下る。
下りながら、翠蓮は大きなため息をついていた。
「……まだ、言ってるのか」
「当たり前でしょ」
黎祥は気まずげにそう尋ねてくるから、ハッキリと返してやった。
「本当、自分が怪我人って自覚ある?」
こんなに、翠蓮が何に呆れているのかと言うと、黎祥の顧みらずな行動に呆れていた。
何故なら、翠蓮が足を滑らせると、腰を引いて抱きとめたり、翠蓮が届かないと言うと、代わりに取ったり。
……まぁ、ここまではいい。
傷には宜しくないが、特に悪いことでもない。
けど―……。
「確かに、崖にあった薬草は貴重なものだったわ。めったに見つけられないから。でも、あんなに安定感がない所に生えていたのよ?あそこから落ちて、死んだらどうするつもりだったの?」
そう。
翠蓮が取ろうとしたのもいけなかったのかもしれないが、絶壁に咲く薬草を取りに行くとは思わなかった。
間違いなく、傷口は傷んだことだろう。
普段の生活には支障をきたすことが少なくなったといえども、絶壁に挑むなんて……阿呆のすることである。
「大丈夫だ。ああいうことには慣れている」
「そういう問題じゃない!」
くるっと、振り返り、翠蓮は指を立てた。