【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―



「やってみろ。翠蓮」


「……」


「出来ない、と、おぬしが言って逃げ回っていたところで、人は死ぬ。何も変わらぬ。死なせたくないのなら、行動を起こせ」


「……」


言われていることは分かる。


飛燕は正論を言っている。


でも、怖いのだ。


一時期でも、彼の妻のひとりになるのが。


一時期でも、彼の妻の中で過ごすのが。


嫉妬してしまう。


苦しくて、泣きそうだ。


だから、後宮に入りたくなかった。


でも、もう、その決断しか残されていないのだ。


名を馳せてしまった、翠蓮の前では、黒幕も特に注意するだろう。


だから、敵対心を剥き出しにできる、妃として生まれ変われ、と、飛燕は言うのだ。


「一旦、下町に病を理由に下がるのじゃ。裏で、栄将軍に手伝ってもらえば良かろう。貴妃にも話をしてもらえ」


飛燕に顎で指し示された栄将軍は、


「妹の命に関わることならば……いえ、陛下の治世を乱すものを探し出すのなら、いくらでもお手伝い致します」


普段、口を滅多に開かない、栄将軍は優しく笑う。


その表情は、栄貴妃によく似ている。


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