【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「助けてくれたことは有難いけど、命を危険に晒しちゃダメでしょう!?」
「私が助けなければ、お前が奈落の底行きだぞ」
「そんなことになる前に引き上げるわよ!」
崖の下は、見えなかった。
確かに、あそこから落ちてしまったら、形は二目と見られないものとなるだろう。
だからこそ、だ。
「生きると決めたのなら、自分のために生きて。私、貴方に助けてもらいたくて、貴方を助けたんじゃないの!」
そう言うと、黎祥はまた、驚いたような、不意を突かれた様な顔をした。
「……」
黎祥は時折、翠蓮が言うことに反応しては、不意を突かれた様な顔をする。
そんなに特別なことを言っているつもりは無いのに、どうしてだろうか。
そんなに、翠蓮の言うことには、黎祥が驚くような言葉があるのだろうか。
「…………分かった」
間を置いて、頷いた黎祥。
何がそんなに不思議なのか、わからないけれど……。
「でもな、翠蓮」
「?」
「やはり、お前が危険ならば、私は何度でも助けたいと望み、行動すると思うぞ?」
そう言いつつも、翳りを帯びるその横顔は、何を考えているのか。
色々と思うところはあるけれど、
「ありがとう」
翠蓮は素直にお礼を言った。
この時の、彼の言葉は後の翠蓮を縛り付け、苦しめる。
「―よし!じゃあ、ご飯食べて帰ろ。夕飯の買い物もしないと!」
誤魔化すように、翠蓮は笑った。
そんな翠蓮の姿を見て、黎祥は心底、安堵したような表情を浮かべた。