【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
宵闇と宵明け
「串焼き素麺(ソバ)、ふたつね!」
「あいよ!」
昼時で賑わう店の中、翠蓮と黎祥は向かい合って座る。
翠蓮がそう声を張りあげると、忙しそうに動き回るおばさんが返事して。
「あれ、まぁ……誰かと思ったら、翠蓮ちゃんじゃないか」
久しぶりだねぇ、と、人の良い笑顔を向けてくれるおばさんは、この店の店主の奥さん。
「おばさん、久しぶりね」
翠蓮がそう微笑んだ時、
「翠蓮ー!」
「結凛(ユイリン)」
寄ってきたのは、噂が大好きな幼なじみの結凛。
おばさんとおじさんの一人娘で、翠蓮の大事な友達。
「薬、ありがとね!」
実質、会うのは一週間ぶりくらいである。
先日、彼女は薬を取りに来たからだ。
「ううん。それよりも、ごめんね。診察に来れなくて」
「何言ってんの!翠蓮は下町で人気の薬師なんだから、仕方ないって!ってか、翠蓮以外は皆、診てもらおうとしないからね〜」
困った、困った、と、元気よく笑いながら、結凛は翠蓮の顔を覗き込む。
「それより、翠蓮、顔色悪くない?大丈夫?」
「そう?別に、特になんとも……」
「ご飯、食べてる?」
「お腹すいたから、ここに来たのよ?二年前の食べないくせは、だいぶ、治ったと思うのだけど……」
「食事は命の源っていうあんたが食べなかったら、みんな、心配するんだから」
お姉さんみたいに、叱ってくる結凛。
この真っ直ぐさに、何度救われたか。