【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「分かってる。気をつけるよ、結凛」
翠蓮がそう笑ってみせると、
「翠蓮ちゃんのおかげで、元気になれた私の奢りだ。今日は、沢山食べな」
と、おばさんが品物表を持ってくる。
「えっ、いや、お金は払うよ!」
「何言ってんだい。翠蓮ちゃん、私たちから薬代も取らなかっただろ。点心(おやつ)も付けようかねぇ……」
「ええー、申し訳ない……」
「ここは、母さんに甘えときな。母さんは翠蓮を甘やかしたいんだから」
何の点心にするか悩みながら、厨房に向かっていったおばさんを眺めながら、結凛は苦笑。
「そんなことより……」
そして、結凛の視線は隣の黎祥へ。
「彼は?患者さん?」
「あ、うん。えっと……」
「黎祥だ。よろしく」
紹介する前に、黎祥は自分から名乗ってくれて。
外套の隙間から見えた表情は、結凛に柔らかく笑いかけてた。
「外套、脱がないの?」
「えっと……諸々と、色んな問題があって……人に見つかりたくないって言うか……」
「見つかるって、ここには翠蓮に恩義のある人達しか来ないよ。滅多に、余所者は来ない。だから、外套、脱ぎな?」
結凛にそう促されて、黎祥は戸惑いげに、
「なら、その前に浄房をお借りしてもいいだろうか」
「浄房?いいよ、こっち」
結凛が指さした方は、外。
外から回って、裏の方へ行くと、あるという……下町ながらの入り組んだ作りである。