【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「……そうですね」
下町で生まれ、育ち、そして、いろんなものを失った翠蓮。
人を救うことを目標に入った後宮に、今度は人を傷つけるものを見出すために、妃となる。
黎祥と顔を合わせることもあるし、
夜伽をすることもあるだろう。
それでも、口だけで言って、後悔するのは沢山だ。
『救いたい、救うんだ』
そう言って、家族を救えなかった幼い自分。
今度こそ。
「お兄様、私、頑張ります」
「……うん」
「頑張って、ここに帰ってきます。だから……」
「うん。ここで、待ってるよ。祐鳳は先に、後宮に帰るだろうけどね」
嵐雪さんの口添えで、長期休暇を貰った慧秀兄様。
一方で、祐鳳兄様は灯蘭様の護衛だから、割とすぐに帰らないといけないみたい。
「……こんなことを言える立場じゃないけど、翠蓮、」
「はい?」
牡丹雪が、頬を撫でる。
白い息が、冬の深まりを教える。
「私の代わりに、雪麗を、護ってほしい……」
兄様の小さな懇願に、翠蓮は静かに目を閉じて。
「はい、お任せ下さい」
……翠蓮の、十八歳の春が近づいていた。