【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「えっ、ちょっ、囲まれてたって……」
思わず、立ち上がる。
下町はもちろん、ごろつきが多い。
黎祥が弱いとは言わないが、あの男、手加減というものを知っているだろうか。
「あ、でも、絡まれているって感じではなかった。なんか、話し込んでて……まぁ、悪いようにはならんよ」
「……本当?」
「俺の目を信じなさい」
練さんにそう宥められて、翠蓮は席に座り直す。
「―翠蓮ちゃん、串焼き、もう少し待てるかい?」
「大丈夫よ。今日は、時間があるの。昼時だものね。久しぶりにみんなと話そうと思ってきた節もあるから、厨房が落ち着いてからでいいわ。焦りすぎて、また、火傷しないでねって、おじさんにも伝えて」
翠蓮は、多くの人の手当てをしてきた。
ひどい人から、軽い人……中には、命を落とした人も沢山いた。
「……本当、翠蓮ちゃんは変わらない」
おばちゃんが厨房に戻っていくのを手を振って見送っていると、横に座った趙さんが、しみじみと言った。
「変わらないって……二年そこらで変わる人、逆にいるの?」
「いるいる。めーっちゃ、いる」
「へー……」
「例えば、この国とかな」
「国……」
「革命軍の先駆者であった現皇帝陛下がお倒れになったって話、聞いたか?」
「「ええ!?」」
翠蓮と、結凛の声が重なる。
そして、それに便上するように、周囲にいた顔見知りのおじさん達も、
「―おお、その噂なら、俺らも聞いたぞ」
と、入ってくる。