【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
淑鏡佳
「……また、いないのか」
ここは、後宮。
はぁ、と、肩を落とす人、ここに一人。
「申し訳ございません、陛下」
目の前で恭しく拝礼するのは、先々帝の妃の一人・楚太昭華である。
黎祥の姉、第四皇女・淑鏡佳の母君だ。
「いや、そなたのせいではない。―身体を厭えよ」
「有り難き御言葉」
いつも通りの挨拶を終え、楚太昭華に手を差し伸べる。
「……ところで、楚太昭華様、姉上の行き先、分かります?」
すると、楚太昭華は苦笑いして。
「陛下が昼頃に訪れるという報を聞き、逃げ出したのかと……お恥ずかしいことです」
面を伏せた楚太昭華は、控えめに皇太后に目を向ける。
―ここは、麗景宮(レイケイキュウ)。
先々帝の妃・楚太昭華の住居であり、まだ嫁に行っていない姉の鏡佳が住んでいるところである。
……また、逃げられたが。
因みに、既に三回目の訪れである。
未だ、姉に会えず。
はぁ、と、黎祥がため息をつくと、ビクッ、と、何故か、身を揺らす楚太昭華。
別に、怒ってはいないんだが。
(それにしても……彼女も、感じるのか。私達が二人でいることを、"不自然だ”と)
黎祥と共に行動している皇太后がそんなに珍しいのか、後宮に入ってくる前から、誰もがこんな視線を向けてくる。
別に、皇太后とは仲が悪い訳では無いのだが。