【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「どうした……?」
「あ、いえ……今の微笑みが、あまりにあの方を思い起こさせましたので……」
「父上?」
慌てて、視線を逸らした楚太昭華。
尋ねると、彼女は小さく頷く。
「申し訳ありません」
低頭しようとするから、それを止める。
「別に良い。後継者選びは間違ってしまった父上だが、その他のことは完璧な政策であったと、私も思っていることだ。……賢帝だったと、聞いている。私も父を超えられる王になるよう、努力するよ」
二年前は恨んでいたはずの父にこれだけ似ていると言われれば、憎む気も失せてくる。
先帝に似ていると言われるより、遥かにマシだ。
父は確かに母を愛していて、だからこそ、母は辺境に追いやられ、病に苦しんだとしても、愚痴のひとつも言わなかったのだと、ここに来て理解した。
それだけで、十分なんだ。
「……何かあったのですか?黎祥」
楚太昭華に別れを告げ、回廊を二人で歩く。
この後、実はとある人と約束をしているのだ。
その為、皇宮に戻らなければならない。
約束の時間まで、少しあるが……。
まぁ、良いだろう。
因みに、何故、黎祥たちが回廊を歩いているのかというのは、勿論、輿に乗るよう、勧められたのだが……
『最近、足腰が鈍りましてね。歩いていきましょう』
という、皇太后の一言で、それは収まってしまったということだ。