【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「……愚かしい名……確かに、そうですね……」
自嘲するような笑みを漏らした皇太后は、黎祥を見て。
「けれど、妾は先帝の母を名乗ったのは、ひとつの贖罪だと思っています」
―贖罪?
彼女に、何の罪があるというのか。
後宮で生き残っていること?
でも、それは、仕方が無いことだろう。
後宮で生きるために、手を汚すことなんて。
「湖烏姫を追放したのは、妾です」
「―……っ!」
唐突に告げられたその言葉に、黎祥は言葉を失った。
ずっと、湖烏姫は先々帝に追放されたと思っていたのに。
「……この言葉を聞けば、貴方も妾を軽蔑するでしょうか」
母は、湖烏姫が追放されたせいで死んだ。
湖烏姫が変わらず、後宮に囚われていたなら―……母は死ぬこと無かったのにと、何度考えたことだろう。
「……」
……顔も知らない、先帝の実の母。
殺したといえど、黎祥が冷静になって彼女を見た時、彼女は既に人の形をしてはなく、顔なんてものは、見れた状態ではなかった。
傲慢で、自分の容姿に自信のあった異民族の女。
彼女は、罪を犯した。
その罪というのは、黎祥の暗殺だ。
幼い黎祥に期待をかけていた先々帝を見て、彼女は黎祥を殺めようとし、その時に盛られた毒を飲んで倒れたのが皇太后。
「妾は貴方の母とは……彩蝶とは仲良かったと思うのじゃ」
「……」
確かに、母から辺境の地でよく聞いた話は、今思えば、全て皇太后の特徴を掴んだ話だった。
話す時に、決してその身分や名前を教えてくれなかったのは、後々、何かが起こったとしても、黎祥の身を守れるようにだろうか。
皇太后はどこか寂しそうな瞳で話す。