【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
始まりと予感
「―それで?人の死骸は見つからぬのか」
暁宵殿の一室。
皇帝の執務室にて、宦官は奏上する。
「は。後宮も、くまなく探しましたが……」
「妃の部屋もか」
「いえ。それは、陛下の勅命がないと……それに、私共に妃の部屋に入れるはずがありません」
「調べられそうなところは調べろ。最も、無理なところもあると思うがな。栄貴妃の宮も調べておけ。余が許可する」
「御意」
頭を下げて、急ぎ足で部屋を出ていく宦官を見て、
「今の話、どう思う?静苑、嵐雪」
黎祥は傍らに控える、二人を見やった。
「あの宦官は……いつも来る方ではないようです」
「目に迷いがありました。恐らく、陛下がいう方の所有物かと―……用済みになれば、行き場はなくなるでしょう。ですので、見張りを……」
「そうだな。―とうとう、動き出したか。女狐が」
「陛下」
忠告するような刺々しい嵐雪の言葉に、黎祥は苦笑して。
「古狸の方が良かったか?」
「……そういう問題ではありません」
朝廷に巣食う者共を、古狸。
後宮に潜む女共を、女狐。
そう称すると、いけないらしい。
「陛下は相変わらず、面白いですね」
全く笑っていないくせに、そういう静苑の台詞はとてもじゃないけど、お世辞にも聞こえない。
果たして、こいつは本心を口にしたことがあるのだろうか―……と思いながら、黎祥は笑う。