【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「お前の妹の宮、荒らすぞ。―構わぬな?」
一応、兄である静苑に尋ねるのだが、静苑は不思議そうな顔をして、首を傾げる。
「陛下のお決めになったことでしたら、私などに逆らう術はございませんよ」
「……怒らないんだな」
怒るかと思ったんだが。
「一応、表で自分の寵妃ということになっている雪麗に、あなたは無駄なことはなさらないと思いますし。表向き、寵妃ということで親の説教から逃げられているのなら、私はいいのです」
「……」
意味がわからない。
実質、夜伽をしていない妹を捕まえて、それでもいいという理由は何だ?
夜伽をしていなければ、子は身籠れぬ。
家の栄華は、極められないと言うのに。
今度は、黎祥が首を傾げる番であった。
「事のつまり、静苑殿は栄貴妃を大事にしているということですよ。陛下」
すると、嵐雪がそう言ってきて。
その説明で、
「―、ああ。そういうことか」
と、納得する自分はやはり、家族や兄弟というものに縁が薄いのだろう。
……ん?兄弟……何か、やらねばならなかったことが……。
最近の皇宮も後宮も騒がしすぎて、落ち着く間のないせいか、直ぐに要件が出てこない。
「……そういえば」
考えていると、静苑がふと声を上げて。
「?」
「陛下、この間、私の部下を呼び寄せたというのは本当でしょうか?」
何気なく、尋ねられた言葉。
それで、ドタバタ騒ぎで忘れていた問題を思い出す。