【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「食べよ、黎祥」
―何も、言えなかった。
言えるはずもなかった。
涙を堪えるのに、精一杯だった。
そんな翠蓮の誤魔化しの促しに、黎祥は怪しむ素振りは見せず、手を合わせ、食べ始める。
その事に、心底ほっとした。
「っ!」
「フフッ、辛いでしょ?」
「……思った以上に」
水を煽り、黎祥は息をつく。
面白い。
こんなにも、良い反応をするとは。
「お前、顔色変えないのな」
すると、舌を冷ましだした黎祥が驚きを隠せない声音で、言った。
「んー、毒に比べたら、これぐらいの痺れはなんともない」
薬師になるための、最短の道。
己の体で、毒を試すべし。
で、試した結果、毒にも香辛料にも強い体が出来上がってしまったというわけで。
「毒って……」
「研究のためにね。あ、薬師にはよくあるわよ?それに、今はもうやってないし」
翠蓮の話を聞いた途端、顔を曇らせた黎祥。