【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
『この戦で、病が拡散するわ。私は守らないと。この家を、家族を、そして、兄さん達も守りたいと言っていた、この国の民を』
そう言って、てこでも動かなかったあの時の自分は、今思えば、愚かであったと、知っている。
それでも、翠蓮には捨てられなかった。
思い出を……そして、希望を。
「前王の時には、良き臣下は処刑された。現王の時は、悪臣が処刑されている。上手く逃れていたとしても、革命に巻き込まれて死んでいるかもしれない。それで生きのびても、病に倒れている確率も高い」
翠蓮や結凛が病気にかからなかったのは、薬草を使っていたからだ。
使っていなければ、きっと、死んでいた。
「分かっているけど、ここまで来ればあとは意地よ。死ぬまで、待ち続けてやる」
辛すぎる串焼き素麺から、湯気が上がる。
「……だから、翠蓮を放っておけないのよ」
「へ?」
「一人で限界まで頑張ろうとしないで。私も、練さんも、趙さんも、祥基だって。皆、皆、翠蓮の味方なんだから」
「……」
「耐えられなくなったら、いつでも言って。どこにいようが駆けつけて助けるから。お願いだから、黙って1人で解決しようとしないでね」
―この時の結凛の言葉は、その先もずっと、李翠蓮を支えていく言葉となる。
この一言で、翠蓮の心は、確かに救われていたのだ。
「……ありがとう」
翠蓮は溢れそうになった涙を誤魔化すように、激辛串焼き素麺をかきこんだ。