【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「……何をお考えですか。皇太后」
李将軍に娘もいなければ、妹もいない。
どこかの娘を養女にしたのかと思ったが……まさか。
「全てを話すのに、それが必要なことなのじゃ」
「……」
「ひとつ、頷け。貴方が李家からの新しき妃を寵愛すると、その新しき妃も貴方の考えに同意し、動く」
「……その妃は、いつ、ここへ」
どうして、翠蓮が後宮から去ったのか。
それは、どこかで幸せになるためじゃなかった。
「三日後じゃ」
いつだ。
いつから、準備されていた。
それは、強制なのか。
それとも、翠蓮が望んだことなのか。
望んだとするなら、どうして、そんなことを―……。
「愛したのだろう?ならば、頷くだけじゃぞ」
「……っ」
頷けない。
頷けるはずがない。
いつも笑って強い彼女が、本当は誰よりも後宮を恐れていることを知っていながら、どうして、彼女を縛り付ける道を選べようか。
きっと、分かる。
彼女の姿を見ただけで、抱き寄せたい欲に駆られた自分だ。
彼女を、"妃として”寵愛してしまえば……っ。
「……頷かなければ、どうなりますか」
「真実を、話せない」
「…………知りたくないといえば?」
「そうなれば、遠くない未来で、そなたは自分を責めるであろう」
告げられた言葉に、唇を噛み締める。
君を手放したくなかったと叫ぶ、昔の自分が蘇る。
それら全てを、思い出にすると誓ったのに。
「そなたには……翠蓮を愛す理由があり、守らなければならない義務がある」
皇太后の重い言葉が、肩に伸し掛る。
震える手にある翠蓮からの恋文を握りしめて、自分に問う。
「…………………………………分かりました」
暫くして出た答え。
そして、皇太后の口から告げられた"真実”。
彼女を裏切ってしまったという事実から、
彼女の大切なものを奪った原因が自分であるという真実から、
黎祥は苦々しい思いで、拳を再び強く握りしめた。