【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
―ゴンッ!
凄く、鈍い音を立てて……祥基が杏果ちゃんの後ろに立った。
「っ……」
「わぁぁぁぁっ!!しょ、祥基っ!!あんた、何してるのっ!!」
杏果ちゃんは頭を抱え込んで、しゃがみこむ。
「何って、拳骨だよ」
それが何か?みたいな顔で、首を傾げる祥基。
「あんた、人様の子に!」
翠蓮が真っ青になって、そう言うと。
「それを言うなら、こいつも人様の子に暴言を吐いただろ。見た目がそうであるというだけで、本当のことなんて何も知らないのに」
と、祥基は眉間に皺を寄せて、そう言った。
その言葉に返せる言葉もなく、呆然と見る。
「―なっ!何するのよっ!!」
「あ?」
「……っ!」
杏果ちゃんは下から祥基を見てしまって、お怒り中の祥基の微笑みに、身を震わせた。
本質的にはとても優しくて、亭主に良い奴なのに……顔が怖いんだよね。
いや、醜い訳では無いんだよ?
美形かどうかと聞かれたら、美形。
でも、黎祥みたいに綺麗な顔ではない。
どっちかって言うと、破落戸(ゴロツキ)より。
面相が悪いのだ。
それはもう、幼女を脅かしてしまうほどには。
おまけに、一家で行商を営んでいるから、力もある。
筋肉もついているから……尚更、怖さは増大。