【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「…………私は、自分のせいで人が死ぬのが嫌」
「?、李妃??」
翠蓮は自分の嫌なことをはっきりと口に出して、杏果が持っていてくれた小荷物の中から、袋を取り出した。
「怜世さん、桂鳳さん、蝶雪、天華、杏果」
名前を呼んで、彼らの手のひらに、"龍の涙”を載せる。
「―我、命ず。珠、所有するもの、永久の安寧を」
微かに光を放つそれを全員に握らせて、
「……私が寵姫となるのなら、命の危険が増えます。それを手放さなければ、最低限の安寧は失われないでしょう」
「李妃様……」
―だから、嫌なの。
守りたいものが、守るべきものが増えてしまうことはね。
怖くて、怖くて、仕方なくなるから。
「―私のために、死ぬことは許しません。
何があっても生きて」
自分に何があっても、彼女たちには笑って幸せになって欲しい。
それが、翠蓮の願い。
「……お願いします」
両親も、仲間も、信じた人も、愛した人も、もう、失いたくないから。
「「「「「御意」」」」」
深く頭を下げると、全員、布を払って、拝礼して。
誰かを使役したいと思ったことは無かったけれど、その光景を見て、どこか、翠蓮は懐かしいと思った。