【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
夜伽
「―陛下、本日の……」
まただ。
また、来た。
毎日、毎日、御苦労なこった。
今宵はどの妃を召すのか、とか。
宦官が持った盆の上に並ぶ、名前の札。
それを横目で見て、悩む間もなく、
「栄貴妃を」
と、命じる。
「……」
「?」
いつもなら、『またか』みたいな呆れ顔をしながら、上辺だけでも、『御意』と口にする宦官。
その宦官が、何も言わずに盆の上を眺めている。
「どうした?用がないのなら、去ね」
数日前に翠蓮の話を、鳳雲という人の話を聞いてからというもの、落ち着かない。
彼女が、自分の妃として―……。
「……」
黎祥の睨みに怯んだ宦官が一礼して出ていこうとするのを、
「待て」
引き止めて、盆を覗き込む。
栄貴妃、向淑妃、呉徳妃、泉賢妃―四妃の名が並び、
その下には、九嬪の名が並んで……その中に、ひとつ。
「へ、陛下?どうかなさいましたか?」
戸惑う宦官の視線がずっと向かっているのは、李妃の札。
ということは、皇太后か嵐雪からの隠れた手紙という所か。
―"約束通り、李妃を召せ”という。
(……翠蓮、お前はなんでこんな所に)
「…………栄貴妃をやめて、この妃を召す」
溢れ出そうになる感情を押し込めて、一言告げる。
すると、宦官は
「御意」
ほっとした面持ちで、拝礼した。