【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
『黎祥!お前は死ぬんじゃねーぞ!!この国を救え!この国を救って、俺らに会いに来いっ!!お前には、それが出来る!!救ってくれ!俺たちの愛した、この国を!!!』
……耳元で甦った、"家族”の声。
『ごめんね……黎祥』
頬を撫でた、温もり。
『あなたを、置いていく私を許さないで……』
最期まで美しかったあの人が、黎祥に遺してくれた家族。
……死ぬ訳には、いかなくなった。
自由になりたかった反面、死ぬ事は出来なかった。
翠蓮に手を伸ばされた時、どうすればいいのか分からず、彼女の判断に全てを委ねることにした。
彼女が放っておくのなら、このまま、彼らの元へ行こうと。
"家族”に、謝りに行こうと―……でも、翠蓮はそれを許してくれなかった。
「翠蓮」
「……」
「……我慢、しなくていいんじゃないか?」
かなり、店から離れたところ。
無言の翠蓮に黎祥がそう投げかけると、
「何を?」
と、翠蓮は貼り付けたような笑顔で振り返った。
(私には、出来ないこと……それを、君がしてくれるのなら)
「おいで」
両手を広げて、黎祥は翠蓮に近づいた。
言葉なんて、無用だ。
大きな悲しみの前に、余計な言葉なんて要らない。
「えっ、ちょっ……」
戸惑う、何かに"呑まれてしまいそう”な翠蓮は、黎祥から逃げようとはせずに。
「……今度は、私の番だ」
そっと抱きしめると、
「…………意味が、分からないわ」
掠れた声で、そう呟く。
(君の全ては、恨みは、悲しみは、今一時だけは、私が引き受けよう)
自分の悲しみを、救ってくれた君のように。
「今は泣いておけ。普段、人を救うために、お前は気持ちを殺しているのだろう」
彼女の笑顔に、自分は救われてしまった。
多くのものと触れ合っていく中で、その多くの者達の悲しみを、この細い肩に背負ってる。
「……」
(守るよ)
声には出せないけれど、何を犠牲にしたとしても、自分は翠蓮を守りたいんだ。
そう思ってしまうのは、彼女が母と似ているからだろう。