【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
帰り道
―静かな、朝だ。
争いの声も聞こえず、
この身に絡みつく、嫌な感触すら忘れてしまいそうな。
「……」
日が少し高くなった頃、渡り回廊を闊歩する皇帝陛下を見かけた。
―龍睡宮からの、帰りか。
女は深く頭を垂れて、皇帝を見送る。
皇帝はこちらの存在に気づきながらも、声をかけることはなく、通り過ぎていく。
(……これで、現皇帝の寵姫は翠蓮に決まりね)
彼女がここにいてくれたら、いつか、聞き出す機会が訪れるだろうか。
あの子達の、行く末を―……。
「―あら?」
扉を閉めようとした、翠蓮の侍女と思われる女性が、女の存在に気づくと、
「どうなさいました?」
と、声をかけてきて。
「栄貴妃様より、文でございます」
女は、本来の用事である文を差し出した。
「栄貴妃様から?」
「李修儀様への、招待状だと……直接お会いすることは叶いますか?」
翠蓮のことだ。
どうせすぐに、妃の皮を脱ぐ。
「伺ってみます」
中に引っ込んだ侍女と、その後、女を中に引入れる為に現れた侍女。
身なりの良さそうな、そんな侍女たちだ。
流石、皇太后と嵐雪殿が関わっているだけある。