【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
姉は、とても大人しい人だった。
寵姫と呼ばれるほどの妃でなかったにしろ、先々帝にはまめまめしく仕え、権力争いには興味を示さず、花を愛で、茶を飲んで、穏やかな日常を過ごすことを望むような、そんな、花仙のような人だった。
それなのに、
―それなのに。
姉は殺された。
呆気ない最期だった。
女は運悪く、姉の最期に立ち会えなかった。
だから、姉を死に追い込んだ人たちを、女は絶対に許さない。
『〇〇、明日は何をしようか?』
―女の、希望を奪った人達を、決して許すものか。
「…………で、何を思い出したのさ。〇〇」
李修儀への伝言を頼んだ侍女が戻ってこないのをいいことに、若琳は尋ねてくる。
女は、柔らかく笑みを漏らして。
「―誰かを、愛すること。愛しく、思うこと」
「……」
「あの子達を腕に抱いた時、涙が溢れたわ」
望んだ子供じゃなかった。
望んだ、夫ではなかった。
生きているのなら、切り刻みたいくらいに嫌いな相手だ。
それでも、あの子達は確かに女の宝物で、今も探している。
「…………相変わらず、難儀な性格ね」
「そう?」
「そんな調子で、現皇帝陛下を害しようとか、考えないで頂戴よ?」
ため息をつかれながら言われ、女は。
「あの方を傷つけることは無いわ。だって、私の大切なものを守ってくれた方だから」
"その時のこと”に思いを馳せて、笑顔を見せる。